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私はスポーツ嫌いである。不器用なので、走り、泳ぎは大の苦手。球技は何をやっても初心者
のまま。従って興味もない。
ただ一つ体を動かせたのは、幼児期に買ってもらったスキーで家の前の坂道で遊んだことだ。
それは成長と共にすぐ終わり、戦中戦後の物資窮乏の時代から、一度は大人のスキーで滑ってみた
いと思っていたので、自分の給料が自由に使えるようになって、やっと念願のスキー用具を入手し
た。
けれど仕事がきつく、たまの休日は殆んど寝てるだけの生活では一度もすべりに行けない年もあ
り、これでは進歩もなく、やる気もなくなるというもの。
やがて仕事が変わり、暖地に引っ越すことになりスキー用具は物々交換で一升瓶と化し、酔いと
共に夢も消え去った。
人生の大半を過ごした頃に、雪国に転勤になった。人に問われて「スポーツは まったく駄目」
じゃ様にならないので「運動ではスキーを少々」と堂々と言えるようになりたいと 決心し、
再びスキーを始めたのはよかったが、生活に余裕は出来たが、体力がすでに衰えつつあり
「弘法筆を選ばず」の反対を行って、新型のスキーに期待し、毎年のように買い換えて努力してみ
たが、成果は期待はずれ。結局体力不足のせいにしてあきらめ、我流のままに永年滑ってきた。
それがライフスポーツに入ってからは、会員の皆さんなら体験してお分かりのように、私も大き
く変わった。会員は皆、目をキラキラして、「スキーが好き、上手になりたい」と口で言わなくて
も、目で、動作でそれがわかる。体からそんな匂いが発散して、私もその一人としてこの匂い、
この雰囲気がすきだ。
重い腰痛を病院に頼らず、自分に厳しいトレーニングを課して、遂に全治させた強い精神の会員
は立派なものだ。
致命的大手術を受けても、再度スキーに励ん
でいるコーチの先生もおられる。みんなスキーが
大好き、同じ匂いのする人達だ。私もガンバら
ねば!
それで冬に備えて少しでも体力づくりを、と思
い去る5月に、腰痛もちで自信がなかったが、毛
無山登山に参加した。弱々しく歩く私を尻目に、
道すがら嬉々として山菜を採りながら溌剌として
駆け上がる女性達に圧倒されたものだが、全般と
してスキー場でのあの匂いが感じられなかった。
まるでよそのグループの中で歩いているみたい。
早く冬になってあの匂いのする仲間に入って、
本業に励みたい。
このようにスキーオンリーで、天下泰平な私ですが人並みに、終焉まじかの人生の苦悩、生活の
不安を背負っている。特に最近は物忘れが進み、記憶喪失も著しく、認知症の恐れは十分ある。
認知症になったらスキーは出来なくなるだろうなあ。やっぱり駄目だろうか。だが、ちょっと待て
よ。認知症患者は最近のことはすぐ忘れるが、昔のことは覚えていることが多いと聞いているか
ら、うまくいけば、もしも私がそうなったら、きっと小学生の昔に帰り、スキー靴が買えなくて、
ゴム長靴を履いて滑ったスキーのことを覚えていて、緩いスロープならルンルン滑っているのでは
ないだろうか・・・・。そうありたい。
しかし考えてみればあの頃は、リフトもゴンドラもなかったから、どうなるやら・・。
何にしても、スキーができなくなったらまもなく私の寿命も終わる。だから、これが生涯で
唯一、最後まで私のライフスポーツということだ。
広報「ライフスポーツ」 第13号 より転載 |
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